先日から、書こうか書くまいか、ずっと思い悩んでいた。
亡くなった方がたくさん出た大きな遭難事故だし、、、と。
でも、やっぱり書こうと思う。
私も山を歩いていた人間だから。
山が好きだから。
36年前の夏、私は山岳部のサブリーダーとして大雪に入っていた。
石狩三山を経て沼ノ原、五色ケ原から高根ケ原、そして愛山渓へと抜ける縦走ルートだった。
全行程で7日、予備日を入れて8日の計画。
パーティーは、私たち高校生と山岳経験が豊富な大学生や社会人の先輩たち、顧問の先生がた、あわせて20名を超えていた。
その当時お付き合いをしていた、一年先輩のイチロウさんたちのパーティーは、十勝を縦走しトムラウシを経て、私たち本隊と五色ケ原で合流することになっていた。
首から上だけ真っ黒に山焼けした先輩たちのパーティーは、天候に恵まれたにも関わらず、計画よりも数時間遅れて合流地点にやってきた。
トムラウシはきつかった、と言いながら。
先輩たちは気心の知れたいつもの5人パーティーでトムラウシを越えてきた。
結果、私たちのパーティーは総勢25名を超えた。
山に入る前には、パーティーの構成をしっかり考えなければならない。
人数が多くなれば多くなっただけ身動きが取りづらくなるが、少なければ熊の生息地である北海道だ、危険度が増す。
その山行では、体力に問題がある一年生が何人もいた。
私は救急セットと最終日の食料が入ったザックを背負い、先頭でバテた後輩が出ると、最後尾からダッシュで先頭まで駆け上がり介抱をした。
装備はいつも厳重にチェックした。
荷物の中から歯磨きセットを外しても、いざという時防寒になる新聞紙は必ず入れた。
1週間の夏山合宿だと、私の装備でも軽く30キロを越す。
私よりも体力のある男子は、50キロもの荷物を背負って歩くことになる。
入部間もない一年生は、20キロほどか。
その軽い荷物でも歩けないほどになった場合は、チーフリーダー以外の男子が、その後輩のザックを交代でダブルザックし、回復するまで空身で歩かせる。
自分の重いザックの上に、後輩のザックを乗せて歩くわけだ。
つまり、全員でお互いのことを気遣い、かばい合いながら1週間を過ごすのだ。
そんな体力ギリギリのところで1週間も行動をともにしていれば、ともすれば、人間のエゴがむき出しになる。
テントサイトに到着し、一日の最後のミーティングで、お互いに激しくぶつかり合うことも珍しいことではなかった。
山は、日常と切り離された特殊な場所だから、それは仕方のないことだった。
そう、山は日常と切り離された特別な場所なのだ。
「目の前に頂上があったとしても、そこで天候が崩れたらすぐに撤退する、その勇気を持て!」
「体力は、登り三分の一、下り三文のニだと思え!」
「俺たちは、山に登らせてもらっているんだ。その気持ちを決して忘れてはいけない!」
「山が好きなら、山で死んだら絶対にいかん!」
長いこと山を歩いてきた大人たちは、まだ高校生だった私たちに、繰り返し繰り返し、しつこいほど何度もそう言った。
そして思った。
この大自然の中にいったん立ち入ったら、私たちなんてただのちっぽけな虫だと。
だから私たちは、いつも山の大きさを自分の小ささを思い、謙虚な気持ちで山に入った。
座学と称して天気図や地図や山の歴史を必死に学んだ。
だって、山が好きだから、山で死んじゃいけない。
36年前のその夏山合宿は、最終日まで誰も怪我することなく無事に下山。
その後も私は、何度か同じコースを歩いたが、その時その時で全く表情の違う山々を見た。
北海道の山は、標高が低い。
だからといって、決して手軽な山ではない。
安易に足を踏み入れれば、大変なことになる。
本州の山にくらべてアプローチも長いし、緯度が高いゆえに気象条件も厳しい。
実際の標高に、1000メートルを足したくらいの標高だと思っていれば間違いないと言われている。
トムラウシだったら3100メートル級の山に登るのと同じになる。
なぜ唐突にこんな記事を書き始めたのか、7月16日のトムラウシでの遭難事故をニュースで知ったためだ。
すぐに猛烈に腹がたった。
私たちが歩いていた北海道の山で、たくさんの人が亡くなったことに。
にわかじたてのパーティーで、たいした防寒具も持たず、天候悪化を知っていたのに、何故前にに進んだのか。
参加者の大半は50歳代以上、私と同じ世代かそれより上だ。
いくらトレーニングを積んでいたとしても、体力は若い時とは全然違う。
参加者は、自分の体力や登山の技量をちゃんと分かっていたのか。
ましてや、厳しい北海道の山を歩くということを、観光気分ではなく、ちゃんと理解していたのか。
どんな人間なのかも分からない、昨日会ったばかりの人間と、死ぬかもしれない場所に足を踏み入れるということを、いったいどう考えていたのか。
分かっていれば、知っていれば、ちゃんと防寒対策になる新聞紙を持っていったよね。
トムラウシは、夏だって急に冬みたいになるんだもの、厚手のセーターだって持っていったよね。
テントも持って、ツェルトも持って、天気が悪化してきたらその場にとどまったよね。
ガイドがなんと言おうと、そうしたよね、きっと。
皆さん、山が好きだったんだもの。
どうか、あなたたちの遭難の原因を、これから山に登ろうとしている方々に広くお教えください。
私たち人間は、本当にちっぽけな生き物で、ほんの一瞬大きな懐に抱かれることだけをのぞんで山に入るのだということ、だから、謙虚に、頭をたれて一歩を踏み出さねばならないということを。
この記事を読んだ山岳愛好家のみなさん、どうか北海道の山を甘くみないでください。
気軽な広告に踊らされて、観光気分で山に入らないでください。
そして、ツアー会社のみなさん、どうかどうか、山を食い物にするのはやめてください。
本当に山が好きなら。

亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
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