知床の赤い橋

| ちょっと独り言 |

我がふるさとの北海道の東の端っこ知床には、観光客が入れない山の中に赤い小さな橋がある。
私の父がずいぶん昔に架けた橋だ。


当時のお役所仕事では、山の中の橋を赤く塗るなんて、きっと大変な軋轢があっただろう。
しかし、父はそれを押し通した。

そして、私が高校の山岳部に入りぼちぼちと山に登り始めたころ、父はその橋の話を笑いながらしてくれた。

「だれも見れん場所さ。緑一色の山ん中に赤い小さい橋があるんだぁ。想像してみろ~、おまえ。めんこいぞ~!」って。

 

知床
■知床五湖より知床硫黄を望む(父のためにNegi2さんが送ってくれた写真)■

その父は、先日他界した。
丈夫さが自慢だった足が急に動かなくなり、緊急入院し手術、その一ヶ月後のことだった。

彼は、入院前日、きかない足を引きずって遅くまで書斎にこもり、必要なものがどこにあるか一目で分かるように書類全てを綺麗に整理したらしい。
兄はやりきれない思いでその書斎に立ったらしいが、私は、それがあまりに父らしく、ただただ尊敬の気持ちいっぱいでその部屋を眺めた。

 

とんぼ返りの上京だったが、父に私の元気な顔を見せに行った。
「おい、太ったな。」なんてことも言われたりして、半日楽しく過ごした後、飛行機に乗るため、もう病室を出なければならなくなった私に、「達者で暮らせ」と、かすれ声ではあったがしっかりとした口調で声をかけてくれた。
笑顔で手を振ったつもりだが、でもその時の私の顔は涙でぐしゃぐしゃだったろう。

現在知床では、観光船が知床岬の突端まで行くという話だから、ひょっとしたら船の上から、父が架けたその赤い橋が見えるかもしれない。
いつか私もその橋を見にいけたらと思う。
そして父は今、雪を頂いた知床も大雪山も遥かに見下ろして、にんまりとしていることだろう。

 

「達者で暮らせ」
うん、わかった。毎日元気で楽しく生きていくよー。

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